日本発のクリエイティブなペダルブランドとして、まず先にアメリカ、ヨーロッパで大いなる人気と支持を獲得し、海外では大手メディアでも紹介される中、その人気が日本へ飛び火する形でユーザーが増えつつあるBananana Effects。そのBananana Effectsが放つ、渾身の最新作がこのTarariraです。
もしTarariraを一言で説明するとすれば「ステップシーケンサー
+(ピッチシフター + グリッチ)」と言い表せるのではないでしょうか。Tarariraの基本機能となるピッチシフター、ハーモナイザーの音程や和音構成を8ステップのシーケンスそれぞれにアサインし、シーケンサーを走らせれば、まずアルペジエイターのような効果が得られます。Tarariraのピッチシフターやハーモナイザーは、スケールに準じて使用できるピッチが決められているため、誰でも不快感のないアルペジオを容易に作ることが可能です。独自の音楽理論を持っている、もしくは音楽理論を破壊したいプレイヤーに向けて、3種類まで自身でオリジナルのスケールを作る機能もありますので、ご安心ください。
加えて、入力された信号をサイン波に変換する“SINE”、矩形波に変える“SQUARE”、入力音を持続音に変える“HOLD”、シーケンスの各ステップに様々なエフェクトをアサインできる“TOY BOX”など、計8種類のエフェクトモードを搭載。シーケンスが移り変わるとともに、様々なピッチシフト、エフェクトが次々にかかっていく様は、創造力を深く掻き立てます。
エフェクトモード
NORMAL:任意のスケールに合わせてピッチシフトできる、いわゆるアルペジエイター。
ORGAN:NORMALモードのピッチシフトに5度の複音を追加。
HOLD:エフェクト・オンの瞬間に入力された音をそのまま持続し、その音をシーケンサーでピッチシフト。
SQUARE:入力音を矩形波に変換して得られるデジタルディストーション。さらにシーケンサーでピッチシフト。レトロゲーム的サウンドに。
SINE:入力音をアナログシンセのようなサイン波へ変換。さらにシーケンサーでピッチシフト。
SINE HOLD:エフェクト・オンの瞬間に入力された音をサイン波へ変換し、さらにそのまま持続。
さらにシーケンサーでピッチシフト。
GLITCH:入力された音の一部をサンプリングし、様々な速度(- 2倍〜 8倍)で再生。8種類の再生速度をシーケンスにアサインし、入力音をバグらせる。
TOY BOX:フィルター、ファズ、リングモジュレーターなど8種類のエフェクトをシーケンスにアサインし、順にオンとなるエフェクトを切り替え。
世の中の多くこ飛び道具系エフェクターは大きな体躯や高価格でありながら、単機能的であることでユーザーを悩ませがちですが、このTarariraはユーザビリティでも非常に優れています。
まず、各パラメーターの設定を最大で9つ(3パッチ × 3バンク)までプリセットし、フットスイッチで即座に呼び出しが可能。それらの動作も非常にスマートです。
向かって右側のフットスイッチはタップテンポの入力が可能。左側のフットスイッチにはシーケンサーの動きを変える動作をアサインすることができ、スイッチを踏むことでシーケンスのスピード、動く方向、動き方などを即座に変更することが可能です。
フットスイッチと各ノブの距離が近いことで、フットスイッチ操作時にノブが動いてしまうことを心配される方がいるかもしれませんが、このTarariraはそういった動作を感知し、パラメーターを固定するプログラムを内蔵しており、誤操作を防止します。
本体表面には、ステップシーケンサーの動きや各パラメーターを画面表示するOLEDを搭載。表示はユニークでありながら解りやすく、その動き方の“ヌルヌル具合”も含めて、動作は非常に爽快です。
上側面にはイン/アウトプットに加え、MIDI インとエクスプレッション・インを装備し、エクスプレッション・ペダルや、MIDI信号での操作に対応しています。なお、MIDIはプリセット変更のためではなく、外部機器との同期に使用します。例えば、テンポ情報を出力するディレイ、マルチエフェクターや、DAW上の曲情報と同期して、シーケンサーを走らせることが可能です。
“Tararira”の文字の上にある8つの黒い丸はなんと、感度の高いタッチセンサーとなっており、ピッチアップ/ダウンなどのリアルタイムでのエフェクト操作、そしてパラメーターの設定時に有効です。
ノブやフットスイッチだけでなく、パラメーター操作時に有用なプッシュボタンも装備。多機能でありながらも、とにかく直感的に操作でき、ストレスなくこのペダルの機能を楽しむことができます。
裏蓋を開けた内部にはUSB端子があり、ファームウェアのアップデートもご自身で簡単に行うことが可能。さらには自己故障診断プログラムも有しており、各ハードウェアやプログラムが問題なく動いていること、逆にどこかに問題があったとしてもそれをユーザー自身が簡単に知ることができます。こういった機能の詳細は、本体裏面にあるQRコードから閲覧できる、オンラインマニュアルによって確認が可能です。
エフェクター業界に身を置く者として、このTarariraには大きな感銘を受けました。本体のデザイン、機能、音はもちろん、事前に公開されたフルCGの動画やオフィシャルページ、OLEDに現れるグラフィック、オンラインマニュアルの作り、自己故障診断モードやオンラインでのファームウェア・アップデートなど、“中途半端なヴィンテージ信仰”や“アナログだから”といった考え、ある種の甘えから見逃されていた旧時代的な思念を一掃する、完璧なプロダクションだと思います。そして、それを可能にした妥協のないもの作り精神には感服しました。ノブひとつをとってもBananana Effectsの独自設計、そして自社製のパーツすらもあります。こんなハイレベルなもの作りが落とし込まれたペダルは、マスプロ製品以外では5年に1台も無いかもしれません。
ヴィンテージ系のペダルに特化しているイメージを持たれがちなCULTですが、決してヴィンテージに偏った志向があるわけはなく、弾いた時の驚きのような感覚があれば、エフェクターの新旧にこだわりはありません。そして、このTarariraを弾いた時には明らかな驚きを覚えます。単に変な音が出る、知らない音がするという次元にはなく、新しい楽器としての価値、高い音楽性を感じます。
むしろ、Binson Echorec、Electro Harmonix Big Muff、Shin-ei Uni-Vibe、Maestro PS-1、Boss CE-1など、現代にヴィンテージとして高い価値の付いている名機こそ、発売当時はこのTarariraと同じように、全く新しい存在として市場に現れたものだったはずです。その音を初めて聴き、操った人々はさぞ驚き、楽しんだのだと思います。その新しい音を扱う感覚を、改めてこのTarariraでお楽しみください。
CULT 細川