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2018年12月にTS808 #1 Cloning modを発売後、2020年には1980年製TS-808(通称#1)の音色の再現度を増した#1 Cloning mod V2へアップデートを行い、同“V2”は非常に多くの方にご好評いただいておりますが、その一方で初代の#1 Cloning modにはいつしか“V1”の愛称が付き、現在でも多くの方に“V1”をご愛用いただいております。生産が完了して月日が経った現在でも再生産のご要望をいただくことがあり、今回限りとなる“V1”の復刻を行います。
製作していた当時と同じ部品を使い、当時と同じ工程で田村進氏本人によって製作されます。今回の限定復刻に伴い、背面ラベルには「LIMITED」の文字が新たに印字されますが、それ以外はオリジナルの“V1”をそのまま再現しています。
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当ショップのオーナーも執筆を務めるシンコーミュージック刊のエフェクター専門誌、THE EFFECTOR BOOK。 そのVol.39(2018年3月発売)ではTube Screamerが特集の焦点となり、編集部には多方面から提供された数多くのヴィンテージTube Screamerが集められました。それらの中にわずか1台だけ、誰しもが耳を疑うような、"美しいトーン"を秘めたTS-808があったことがこの物語の始まりです。
その個体は1980年製で、Dr.Dのペンネームでも知られている、プロのライターが所有するものでした。DCジャックは外付けのナットで固定され、OPアンプはテキサスインストゥルメンツ製のRC4558P、通称マレーシアンチップが搭載された、特に希少価値の高い仕様です。この個体の研究中、他のTS-808と区別するために付けられた識別番号が#1であったことから、その個体は“#1(シャープ・ワン、イチバン)”と呼ばれることになりました。数多くのヴィンテージTS-808/OD-808が集まる中、同誌の編集部、ライター陣、プロギタリスト、全員が先述の"#1にある根本的な違いを感じ取っていました。もちろん、それは私も例外ではありません。
その"#1"が持つ魅力に取り憑かれた私は、個人的なコネクションから"#1"と非常に近いロットで生産された個体を複数テストできる環境を作り、それらを隈なく比較しました。"#1"と同じOPアンプ、同じ基板、同じコンデンサーなどを使って作られた各個体の製造年月は、わずか2ヶ月も変わりません。しかし、"#1"の音だけが決定的に違うのでした。
その違いとは、圧倒的な透明感、それゆえのヌケの良さでした。例えば、6弦全てを交えたコードを弾いた際の分離感は圧倒的です。低域に淀みがなく、高域は響くという言葉が似合うような、まさしく"美しいトーン"でした。それでいて最大ゲインは他の個体よりも高く、しっかりとしたオーバードライブサウンドを作ることもできます。しかし、強く歪ませた際にも巻き弦の感触はルーズにならず、弦がフレットに当たる質感を見事に再現してみせます。一般的なTube Screamerにあるような中域の盛り上がりは小さく、そのことも分離感や透明感に寄与しているように感じられます。その後も多くのヴィンテージTube Screamerに触れる機会がありましたが、先述の質感を持った個体に出会う機会は1度もありませんでした。
それからしばらくして、私は1人の著名なエンジニアから連絡を受けます。その人物とは、自社ブランドとしてMaxonを保有し、国内外の様々なブランド、メーカーからOEM生産を受注していたことで知られる日伸音波製作所で数多くのエフェクターを開発した、田村進 氏でした。
日本国外では広く知られていることですが、田村さんは80年代半ばまでのMaxon製エフェクターのほとんどを設計した人物であり、79年に田村さんが設計したオーバードライブはOD-808、OD-9などとして発売され、Ibanez TS808、TS9の生産も日伸音波製作所が担当していたことは世界的に知られています。つまり、田村さんは808の産みの親というわけです。その田村さんから連絡があり、"#1"を徹底的に解析してみたいというのです。
私は所有者であるDr.D氏の許可を得て、すぐに田村さんによる"#1"の解析が始まりました。田村さんの元にはAudio Precision社製の精密測定機器と、すでに20台ほどのヴィンテージTS-808/TS9の計測データがあり、当時の各個体にどのような違いが生じているかを熟知しています。それだけに、結果が出るまでに1週間もかかりませんでした。そして、その結果を田村さんはこう伝えてくれたのです。
「この1台だけ、どのTSとも全く違いますね。」
私はすぐに田村さんの元に伺い、様々なTube Screamerの計測データを前に、#1"の全貌を目にしました。"#1"が持つ最も大きな違いとは、驚くべきことに"波形"だったのです。
波形とは、根本的な音色の種類を表すパラメータの一つであり、本来は同じ回路であれば波形が大きく異なることはありません。例えば、個体差があると言われているTS-808をいくつか計測したとしても、それらで波形は変わらないのです。しかし、"#1"は内部で何らかの異常をきたし、波形が想定されているものから変わってしまっていたのです。それ以外にも周波数特性、倍音構成を始めとする、様々な解析データを目にし、それらを見終わる頃にはすでに「この"#1"を再現できないだろうか」という思いが込み上げていました。
私と田村さんの間で毎日に近いペースで意見を交わし、幾度ものカット&トライを繰り返しました。様々な計測結果を前に、私が聴覚上の違いを意見し、田村さんはそれを回路で再現してみせる。その繰り返しです。そして、"#1"の解析から5ヶ月を過ぎた頃、このTS-808 #1 Cloning mod.が完成したのです。
"#1"の最大の特徴である波形をほぼ完璧に再現し、そのほかの数々の特徴も緻密なチューニングによって類似させることに成功しました。コードの分離感、弦の質感の再現性に長け、歪み量はわずかに多め。Toneコントローラーの効きにもこだわっています。ただし、ON/OFFを表すインジケーター(LED)だけはオリジナルよりも明るく、視認性の良いものへ交換してあります。エフェクトがOFFの状態ではオリジナルと同様に無色透明ですので、外観の印象を崩すことはありません。また、内部のスイッチングFETの動作を制御し、電源投入時には必ずエフェクトがONの状態で起動するようになっています。これは元となった#1の動作を再現したものでもあり、同時にループスイッチャーなどのシステムに組み込んだ際の利便性を重視した仕様でもあります。
これは世にあるTube Screamerのモディファイ品とは大きく異なり、あくまでも1980年製の"#1"の再現を目指したものであるため、スイッチの追加や大規模な加工などはあえて行なっていません。しかし、"#1"が持つ美しいトーンを再現することはできたと、CULTと田村進氏は自負しています。レジェンドによる、新たなレジェンドの創作をお楽しみください。
全てのモディファイ作業は田村 進氏本人によるものであり、本体裏面にはそのことを証明する田村氏のサイン、シリアルナンバーが本人の直筆によって加えられます。それだけに、生産のペースには限りがあることを何卒ご了承ください。
日本国内では非常に貴重な田村 進氏へのインタビュー記事もございます。ぜひ、ご一読ください。
※注文にあたり、以下の注意事項を必ずご了承ください。
1) 全てのモディファイ作業、本体裏面のサインは田村進 氏本人が行っており、生産のペースには限りがあるため、出荷までにお時間をいただく場合がございます。
2) 最新の注意を払ってモディファイ作業を行なっておりますが、作業の際に多少の傷がついてしまうことがございます。
3) いかなる理由でもシリアルナンバーの指定はできかねます。
4) 写真にあるオリジナルのTS-808はあくまでも比較画像であり、商品には含まれておりません。
5) Tube Screamerは星野楽器株式会社の登録商標です。当製品は星野楽器の認可を得て、販売しております。