スペシャルインタビュー 6 : Kaz Koike(ELECTROGRAVE)
ーまず、ご出身はどちらですか?
Kaz Koike(以下、KK):ここ、名古屋です。名古屋で生まれて、名古屋で育って、高校も大学も就職先も名古屋で、結局名古屋から出られなかったという(笑)。
ー趣味、仕事問わず、どのような楽器を弾かれますか?
KK:ドラムとギターを一緒に始めたので...
ードラムとギターを一緒に始めるって、どういった事態ですか?(笑)
KK:まぁ、好奇心が旺盛だったので、たまたま....高校の時にギターはいっぱいいたんですけど、ドラムが全然いなくて、一緒に始めてみようかなと。
ードラマーとしての経験は今のエフェクター作りに活きていると思いますか?
KK:いや~、解らないですね。音楽が好きだったので、そういったことの方が大きいと思います。
▲ELECTROGRAVEの工房にあるCDラック。この他にもレコードだけが収められた棚、ターンテーブルなどがあり、工房は音楽で溢れている。
ーどんな音楽体験からご自身で音楽を始めようと思ったのでしょうか?
KK:僕、インディーズのバンドが大好きなので、USインディーとか日本のインディーズバンドのライブにしょっちゅう行ってて、かといってコピーはやってなかったんですが。コピーしたのは布袋寅泰とOasisくらいでしょうね。
ーなるほど。
KK:自分で音を作るのが好きだったんでしょう。恐らく、ですが。
ーそれで、初めてエフェクターを作ったのはいつの頃だったのでしょうか?
KK:初めて作ったのはめちゃめちゃ遅かったと思いますよ。大学生の時、20歳ぐらいですね。
ー大学は普通科だったのでしょうか?
KK:いえ、工業大学です。そこの計測システムというところで、測定器の研究をひたすらしていましたね。どうやったら精度よく測れるのか。精度よく物理計測をするためのシステム、回路を考えていました。
ー電子回路に関する知識はその時にすでに学んでいたんですね。
KK:そうです。でも、それは計測精度をめちゃめちゃよくするための回路ですから、音響的なことではなかったです。ただ、教授が真空管のオーディオとかが大好きで、その話はよく聞いていました。
ーちなみに、初めて作ったエフェクターはどういったものでしたか?
KK:確かトレモロやったと思いますね。トレモロなんですけど、測定器で使っていた回路を応用した、みたいな。
ーというと、具体的にどんなものだったのでしょうか?
KK:PWMっていう技術を使って測定器を作っていたんですけど、それってシンセサイザーでもよく使われる変調方法なんですね。それを使ってONになってる時間が変わる、みたいなトレモロを作った気がします。
ーなんで初っぱなからそんなものを作ったんですか(笑)。
KK:いや、それだけが自分が知っている回路で作れるエフェクターだったんですよね。
ーその頃からギターを弾いていたということですが、そもそもその時にエフェクターを使っていましたか?
KK:使っていましたね。でも、めちゃめちゃ色んなものを使っていたという訳ではないです。個人的に演奏するときはエフェクターが少ない方が好きで、エフェクターという物体には魅力を感じているんですけど、自分が使う立場に立つと少ない数のもので良い効果を出せる方が好きだったりするんですよね。そういった考えは自分がものを作る上で活きていると思います。
ー具体的に、どんなことに活きていると思いますか?
KK:最小限の効果でものすごい影響力のあることをする、みたいな。例えばコレ(Ripper Fuzz)とか。
▲国産ヴィンテージであるRoland Bee Geeを基にしたサウンドのファズペダルにサイドチェイン式で動作する強力なゲートを組み合わせたRipper Fuzz。
KK:これって、ファズの音を止めるだけなんですよね。だけど、音を止めるだけで色んな奏法ができるし、表現の幅が広がったりする。
ーRipperって歪み量が固定ですよね。なぜ、歪み量を可変させなかったのでしょうか?
KK:これはですね、必要最低限でシンプルなコントロールにしたくて、Gainのコントローラーも試作品には付けていたんですけど、自分にとっては嬉しい効果がなかったので、それならVolume、Tone、そしてRipper(ゲート機能)のコントロールだけの方がカッコいいなと思ったんです。
ーそもそも、なぜRipperのようなものを作ろうと思ったのでしょうか?一般的には、ファズでも王道的なコンセプトが他にあると思います。少なくとも、ゲート付きのファズを作ろうなんて人は少ないと思うのですが、何故そんなものを?
KK:まず、DMBQというバンドのギタリスト、増子さんに大きい音量の中にいても突き抜けるようなファズを作って欲しいと頼まれて、その試作品が結構良かったんですけど、それじゃただのファズになっちゃう、もう一つ何か尖った要素を入れたいって思って、めちゃめちゃデカイ音量をゼロにする機能を付けたら面白いかな、って。例えば、バーッとしゃべっている人がいて、その人がピタッと話を止めたら興味がいくじゃないですか?
ーええ、まあ確かに…
KK:そういった感じで、聴いている人に興味を持ってもらえるようなことが、狂ったように大きな音量を急にゼロにすることで作れるんじゃないかって発想だったんです。それを実際にやってみたら面白かったんですよね。普通、ファズでカッティングをすると“残り汁”みたいな音が出ちゃうのですが、それが容赦なく切れて、ありえない演奏ができるってことが解って、それで調整をさらに進めていって商品になったって流れです。
あと、最小限の効果ってことでいうと、Search And Destroyも音量制御とチャンネル切り替えしかしてないんですよ。
▲入力信号を4系統のアウトプットから交互に、またはランダムに出力し、立体音響的効果を作るサラウンド・パンニングマシン、Search And Destroy。
KK:それでもピーンと弾いた程度のものが生きたフレーズに変わったりするじゃないですか。そこにはSearch And Destroyに繋がれた複数のアンプの特性の違いもあって生きたフレーズになっているとは思うのですが、なんていうか、そういったシンプルな効果だけど、音楽に影響のあること。
興奮しますね、そういった要素に(笑)。
聴く音楽もミニマルなものが好きなんですよ。すごく少ない音で構成された音楽が好きで。
ー 一時期のAutechreとか、Ryoji Ikedaとか?
KK:あぁ!もうっ!(※喜びの表現) ノー・ウェイヴの時代の音楽が大好きで、色んな意味でノー・ウェイヴの気持ち。音の実験、研究、永遠とそういったことをやっている音楽が大好きで、そういったことはずっと自分の中に残っているのではないでしょうか。その結果、こうなっちゃった、みたいな(笑)。
ー当時、他にはどんなエフェクターを作っていましたか?
KK:いや、特に作ってないです。さっきのトレモロを作ったのは就職する直前で、会社に入ったら入ったで今度は自分の意思とは無関係にアンプやエフェクターを作らなければいけなくなりました。
ー大学を卒業後、星野楽器に就職されたんですよね。
KK:いや、学生の時にバンドをやり過ぎて勉強していなくて、大学院まで行きました。そこではより進んだ計測器の設計を勉強していたのですが、その途中で楽器のメーカーに入りたいって思ったんですよね。
ー大学院を出て、そのまま計測器の開発関連の道に進もうとは思わなかったのですか?
KK:いや、思いましたよ。勉強を続けていると、例えば6桁までビッと精度よく安定した電圧を作ることとかに興奮するようになっていったんですよね。その精度の良さに美学を感じ始めて、実は何社かの計測器メーカーを受けたんですけど、全部落ちました(笑)。その他に3社の楽器メーカーを受けていて、その中の星野楽器に入社しました。
ー星野楽器にはエフェクター関連の部署に配属されたのですか?
KK:そうなりたかったんですけど、最初の一年はギターの検品とか、企画とかをやっていましたね。その後、アンプとかエフェクターなどの電子楽器の部門に異動して、2年目からはそこで働いていましたね。
ー具体的に、どんなエフェクターを担当されたのでしょうか?
KK:ガッチガチにやったのはES-2 Echo Shifterってやつですね。すごい苦労しましたけど...
▲FULL-DRIVE 2の隣にある、3つのノブと中央にスライダーコントローラーを備えたエフェクターが Ibanez ES-2。ユニークな機能を有したアナログディレイペダル。
ー結果、どれくらいの期間、星野楽器に勤めていたのでしょうか?
KK:ギターの部署から移って確か10年間、アンプとエフェクターの電気関係のことをやっていましたね。その時は自分が浮いているとか、自分が間違っている気さえしていたので、企画の発案などよりもひたすら回路書いて、基板図面書いて、ノイズが出にくい基板設計をしたりとか、そんなことばっか10年間やっていました。
ーそして、星野楽器を辞めてからELECTROGRAVEを興した、と。
KK:会社を辞めた後は家業を手伝わなければいけなくなってしまって、同時に知り合いからジャンクの楽器を預かって再生する、みたいなことをやっていましたね。その後、ヌル~っと始めたので定かではないんですが、おそらく2015年にELECTROGRAVEを始めたんだったと思います。
▲ELECTROGRAVEのブランド名の由来ともなった、再生を待つ多量のジャンク品の機材たち。
ー自己表現としての存在 = ELECTROGRAVEー
ー全ての作業はこの名古屋の工房で、お一人で行われているのでしょうか?
KK:そうですね。たまに簡単なことを手伝ってもらうことはありますけど、ほぼ一人です。
ーこの工房は一般にも解放されているのでしょうか?
KK:今は解放してないんですよ。以前は決まった時間にオープンして、誰か来たら音を出して、冷蔵庫に入ったお酒を飲んで帰っていく、みたいな(笑)
▲以前は工房を解放し、その場でELECTROGRAVE製品の試奏、購入が可能だったが、今は製作に集中するため、工房の解放は休止している。
ー学生にもエフェクターの講座を持っていると聞いたのですが、具体的にどんなことをしていらっしゃるのでしょうか?
KK:知り合いが高校の担任をしていて、その人が科学部の顧問しているんですね。その科学部ではシンセサイザーとか、音が出るものを作っていて、その中で音が立体的に聞こえるメカニズムとかを研究して、自分たちで実践する活動をしているのですが、その中で僕がエフェクター、そういった装置の作り方を熱く(笑)、語りに行ってるって感じです。あくまでも課外活動なので、そんなに頻繁にやっているわけではないのですが、中にはそういった装置が好きな子もいるんですよね。音楽に興味のない子ばっかなんですけど、ものを作るのが好きなんでしょう。そういった子たちは自然に伸びていきますよ。
ーエフェクターを全く知らない少年少女にエフェクターというものを見せると、主にどんな反応を示されるのでしょうか?
KK:無反応ですよ(笑)。でも真面目に聞いてくれるんで、教え甲斐はあると、勝手に思っているんです。
ー将来が楽しみですね。ELECTROGRAVEの最初の製品とは、どんなものでしたか?
KK:最初はコレです。
▲本体のパッドを叩くことで発音するアナログドラムシンセマシン、Beat Happening。
ー最初からコレですか!?(笑)
KK:今は自分でもバカじゃねえの?って思いますよ(笑)。この時点から設定が間違ってますよね。完全に僕のオリジナル回路って訳ではないんですけど。会社ではひたすら地味な作業を続けた反動ってのがあったんでしょう、音をゼロから発するものを作りたいって思いがあって。自分から物語が始まるような、そんな妄想みたいなものを表現したかったんでしょうね(笑)。
でも、やっぱりギター用みたいなものを作らないと売れないんだ、ってことが解って、次にできたのがコレですよ。
ーそれでSearch And Destroy!?(笑)
KK:なんか、まだ気付いてなかったんですよ。自分がおかしいってことに(笑)。本気でコレを作ってたわけですから、よっぽどおかしいですよね。DSPを使って動かしてるんですけど、そのデザインもして、高周波の設計とかもやっていたので、それを流用して、というかもはや悪用ですよね(笑)。でも、これならピーンっと単純な音を弾いても音楽になり得る可能性を持っていたし、アルペジオを弾いても独特じゃないですか。そういった雰囲気を出せたりするので…
ー確かに言ってることはもっともらしいですけど(笑)
KK:ただ、コレをパッと見て、僕が作っている時の考えまで理解して買ってくれるか、ってことまで想像が及ばなかったんですよね。
で、僕はMASFとかが好きだったんで、やっぱりラインナップにオシレーターが要るだろうと思って、次に作ったのがQUAD OSCILLATOR…
ー(食い気味で)懲りないですね(笑)
KK:コンパクトでノブがガーッと並んでる絵面がカッコいいと思って。
ーそういったデザインはご自身でやっていらっしゃるのですか?
KK:ですね。シルク(シルクスクリーン=表面のデザイン印刷のこと)については部分的に知り合いのデザイナーに頼む場合がありますけど、ノブの位置とかは自分で決めます。筐体にシルクが乗っていない状態、ノブとスイッチだけが筐体に並んでる状態でカッコいいものを作れって星野楽器に勤めていた頃に言われていたので、それが役に立っています。要するに、シルクを乗せるまでカッコいいか分からないってことじゃなくて、ノブやスイッチの配置でカッコよく見せる努力をしろ、と。それはいつも考えていますね。間違ったものを作ってるかもしれないですけど(笑)。
ー新作を作るとき、どんなことがきっかけになるのでしょうか?
KK:それは完全に音楽ですね。それだけは絶対です。特にエレクトロニカはそうだと思うんですけど、エフェクターの音が音楽にすごく効果的に入ってて感動するんです。でも、自分だったもうちょっとこうするな、ああいった効果が作りたいな、ということがきっかけです。Black Diceはエレクトロニカじゃないですけど、あれを聴いているとめちゃめちゃモチベーション上がりますね。開発脳が動きます。
ー具体的にきっかけになった曲、そこから生まれた機種の具体例などはありますか?
KK:そういったことは覚えてないんです(笑)。直接活きているかは分からないですけど、Black DiceのCreature Comfortsというアルバム、This HeatのThis Heatというアルバムの存在は外せないですね。
▲写真左は This Heat「This Heat」、右はBlack Dice「Creature Comforts」。どちらもELECTROGRAVEに大きな影響を与えたという。
ーその2枚からはどんなインスパイアがあったのでしょうか?
KK:This Heatはオルガンのピッチが揺れるんですよね。それを積極的に音楽に取り込んでいて、ちゃんとした音程ではないんだけど、外れた要素がカッコよくなるという、その感覚。Black DiceのCreature Comfortsは全編に渡って刺激の塊です(笑)。
▲This Heat「This Heat」
▲Black Dice「Creature」
ー普段、エフェクターの設計はどのように始めるのでしょうか?
KK:まず絵を描きます。機能を思い浮かべながら、ここにLEDがあって、ここにノブがあって、とかってことをイラストレーター(イメージ編集ソフト)で描いて、ひたすら考えるんですよ。必要なスペックを決めてから中身の回路を考えて、部品の配置を考えて、でも試作は最終段階ですね。音はシミュレーターとかの計算とかで理詰め。こういった特性だとこういう音になるってことを考えて、最後の最後で試作品を作って、それがダメなら一歩戻って計算し直して、って感じですかね。あまり感覚的にはやらないですね。感覚的なものが多いんですけど(笑)。
▲試作の段階で生まれた、様々なエフェクターのプロトタイプ。
ー外観のデザインも特徴的ですが、そういったことのインスピレーションの元になるようなものはありますか?
KK:インダストリアルな存在にも興味があって、インダストリアルミュージックってあるじゃないですか?あの感じを物体で表現したかったのかもしれないですね。
ーそれもまた音楽なのですね。
KK:もう間違いないですね。音楽からの影響はめちゃめちゃ強いです。なので、音楽を作るような感覚でものを作られているメーカーさんにはものすごい共感が湧きますね。
ーそういった視点で見れる王道的な歪みエフェクターも世の中にはあると思うのですが、ELECTROGRAVEの視点で新しいオーバードライブ、ディストーションのようなものを作る予定はないんでしょうか?
KK:作りたいんですよね、めちゃめちゃ興味ありますよ。ただ、自分が作るからには何かを元にした○○系のエフェクターってものをまだ受け付けられない。自分から発信する何かを載せたい。それを込められる歪みのネタってのが簡単に出てこないっていう感じです。
ーでは、逆にディレイ、リバーブ、フィルターなどの新しいエフェクターの方が出てくる可能性がある、と?
KK:そうですね。音楽を聴いているとそういった方のアイディアを思い浮かんじゃいますよね。
ー好きなエフェクターブランド、メーカー、具体的な製品はありますか?
KK:MASFのPOSSESSEDですよね。あらゆる要素がランダムでグッチャグチャに変化する。でも、独特の効果をもってちゃんと音楽に乗っていける。あれには度肝を抜かれて、こんな凄いものを作る人がいるんだ、って思いましたね。あと、Lastgasp Art Laboratoriesも衝撃的でした。
ーLastgasp Art Laboratoriesは間違いなくカッコいいですよね。
KK:存在がカッコいい。実際に使うかどうかってこともあるんですけど、ものとして存在がカッコよくて、そういったことをカッコいいと思える感覚を芽生えさせてくれましたね。それまでは会社の方針もあって、いわゆるコモディティ的な感覚でアンプやエフェクターをつくらなければいけないことが多かったので、Lastgasp Art Laboratoriesをカッコいいと思える脳が死んでたんですけど、ものだけを見て、その圧倒的な個性で心が震えるっていう感覚を知れたのはLastgasp Art Laboratoriesだったり、MASFのPOSSESSEDがきっかけでしたね。
ーLastgasp Art Laboratories、DEATH BY AUDIO、effector 13、4msあたりは、実は僕もエフェクターにハマったきっかけでしたからね。
KK:やっぱりそうですよね!(笑)。なんでしょうね、あの魅力は。魔力というか。
ーまず、世の中に一切迎合しないところ。どこで買えるかも解らない。あの謎めいたスタンスからして違いましたよね。売る気がないというか、お金に直結していないという点でも芸術そのものでした。
KK:やっぱりそういったものに憧れるんですよね。音楽もそうですけど、更地から何かを生み出す人をものすごいリスペクトしちゃうんですよ。そういった性格も相まって、凄いなって思っちゃうんだと思います。
ーアーティストに対する憧れがあるんですね。会社では仕事として何かを作っていたからでしょうか。
KK:元々アーティストのような気配はあったんだろうけど、仕事ではそれが活かせない環境にいて、自分自身がよく解らなくなっちゃってた、って感じですかね。
ーKaz Koikeさんは、エフェクターを作ることを仕事にすると願って、念願叶ってエフェクターを仕事にしたって想いでしょうか?それとも、気づいたらなっていた、という流れでしょうか?
KK:なんというか、自分で何かを表現したかった、っていうことがあって。それは音楽でもいいですし、ものを作るのでもいいですし、他の何かでもよかったんですけど、その中で自分ができるのがエフェクターを作るということなんじゃないかな、と思います。エフェクターを作るっていうことに対する憧れは0(ゼロ)ではなかったんでしょうけど、たぶん、それよりも何かを表現したかった、って思いますね。
ー実際、エフェクタービルダーという立場になってみて、どんなことを感じていますか?
KK:やっぱり、すごい新鮮な感動がありますよね。会社でエフェクターを作っていた頃は、自分の作ったものに対する買ってくれた方からの反応があまり解らなかったんですけど、自分でエフェクターを作って売ることで、それがどんな風に受け入れられたのか、そうでなかったのか、いろんなことがダイレクトにビシバシ来るわけですから(笑)、この立場を選んで良かったなと思いますね。
KK:でも、最近ではBlackfinとかFV-1とかのデジタルプログラミングを独学で覚えてガンガン作っている人を見ると、むちゃくちゃビックリしますね。レベルが高いなって思います。大手企業の開発のような環境にいないながら独学で技術を習得してくるっていうのは、並々ならぬ気持ちがあったんだろうなって思います。凄いって思いますよ。そういった人たちを見ると、自分もこうしちゃいられないなって思います。めちゃめちゃ焦ります。もう勉強しなくていいなんて全然思わないし、表現したいものがあった時に表現できる技術っていうのを持っていないといけないなと思いますよね。
ーもし、良いエフェクターの条件があるとすれば、それはどんなものだと思いますか?
KK:触った瞬間に新しいフレーズが出てくるものだと思いますね。それだけです。触っていると音楽の形がどんどんできてくる。それっていうのは、このエフェクターを何も考えずに使うとそうなります、ってことではないんです。使う人の感性がうまく乗っかって、それで多種多様に変化する、けどその人にとって新しい演奏ができる、させてくれる、っていうのが良いエフェクターの条件だと思います。僕にとっては、ですけどね。
ーということは、ELECTROGRAVEのエフェクターは全てそれを意識しているということでしょうか?
KK:全部意識してますね。実際にそうなっているかは解らないですけど、そういった気持ちはいつも持っています。プレイヤーに波及するというより、自分の音楽を作る人にものを作りたいという気持ちが強いんじゃないかと思います。もしプレイヤーに対してなら、完璧に調整された歪みとか、そういった美学を追求していたと思うんですけど。そういったことに興味はあるんですけどね。でも、音楽を創造するための起爆剤になるようなものを作りたいってこと、それがELECTROGRAVEのコンセプトです。それだけだと思います。
ー今後、ELECTROGRAVEではどんなエフェクターを作りたいと考えていますか?
KK:生活が楽になるようなエフェクターが作りたいというのが本音ではありますけど(笑)、でも、新しいもの。完全に新しいものを作れるとは思っていないんですけど、面白い組み合わせを合理的にというか。それで音楽に繋がるもの。ELECTROGRAVEはずっとそれだと思いますね。