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当ショップのオーナーも執筆を務めるシンコーミュージック刊のエフェクター専門誌“THE EFFECTOR BOOK”。 そのVol.39(2018年3月発売)ではTube Screamerが特集の焦点となり、編集部には多方面から数多くのヴィンテージ Tube Screamerが集められました。それらの中にわずか1台だけ、誰しもが耳を疑うような、"美しいトーン"を秘めたTS-808があったことがこの物語の始まりです。
その個体は1980年製で、Dr.Dのペンネームでも知られている、プロのライターが所有するものでした。DCジャックは外付けのナットで固定され、オペアンプはTexas Instruments社製のRC4558P、通称“マレーシアンチップ”が搭載された、特に希少価値の高い仕様です。多く集められた他のTS-808と区別するために付けられた識別番号が#1であったことから、その個体は“#1(シャープ・ワン、イチバン)”と呼ばれることになりました。数多くのヴィンテージTS-808/OD-808が集まる中、同誌の編集部、ライター陣、プロギタリスト、全員が先述の#1にある根本的な違いを感じ取っていました。もちろん、それはその場にいた私(CULT 細川)も例外ではありません。
※現在、#1はCULTが譲り受けています
その#1が持つ魅力に取り憑かれたCULT 細川は、個人的なコネクションから#1と非常に近いロットで生産された個体を複数テストできる環境までも作り、それらを隈なく比較しました。#1と同じオペアンプ、同じ基板、同じコンデンサーなどを使って作られた各個体の製造年月は、わずか1ヶ月も変わりません。しかし、やはりその中でも#1の音だけが決定的に違うのでした。
その違いとは、圧倒的な透明感とそれゆえのヌケの良さ、そして低音の伸びでした。例えば、6弦全てを交えたコードを弾いた際の分離感はTS-808としては圧倒的です。低域の深くまで淀みがなく、高域は響くという言葉が似合うような、まさしく美しいトーンです。それでいて最大ゲインは他の個体よりもわずかに高く、しっかりとしたオーバードライブサウンドを作ることもできます。強く歪ませた際にも弦自体の明瞭な響きが保たれており、巻き弦の感触はルーズにならず、弦がフレットに当たる質感を見事に再現してみせます。
そういった分離感の良さや明瞭な原音の響きが起因してか、一般的なTube Screamerにあるような中域の盛り上がりはさほど感じさせず、しかしそうであっても明らかにいわゆるTS系の音色であるのです。その後も多くのヴィンテージTube Screamerに触れる機会がありましたが、先述の質感を持った個体に出会う機会は1度もありませんでした。
それからしばらくして、私はひとりの著名なエンジニアから連絡を受けます。そのエンジニアとは、自社ブランドとしてMaxonを保有し、国内外の様々なブランド、メーカーからOEM生産を受注していたことで知られる日伸音波製作所で数多くのエフェクターを開発した、田村進 氏でした。
田村さんは1970年代から1980年代半ばまでのMaxon製エフェクターのほとんどを設計した人物であり、主に日本国外でペダル界のレジェンドのひとりとして広く知られています。1979年に田村さんが設計したオーバードライブはOD-808、OD-9などとして発売され、Ibanez TS808、TS9の生産も日伸音波製作所が担当していたことは世界的に知られています。つまり、田村さんは808の産みの親、TS系回路の元祖設計者というわけです。
その田村さん本人から連絡があり、#1を徹底的に解析してみたいというのです。
▲1970年代に楽器のトレードショウで撮られた写真。向かって左が田村進氏。
私は#1の所有者であるDr.D氏の許可を得て、すぐに田村さんによる解析が始まりました。田村さんの元にはAudio Precision社製の精密測定機器と、その測定器で得た約20台分の様々なヴィンテージTS-808/TS9の計測データがすでにあり、1980年代当時の各個体にどのような違いが生じているかを熟知しています。それだけに、結果が出るまでに1週間もかかりませんでした。その結果を田村さんはこう伝えてくれたのです。
「この1台だけ、どのTSとも全く違いますね。」
私はすぐに長野県にある田村さんのご自宅に伺い、様々なTube Screamerの計測データを前に、#1の全貌を目にしました。
#1だけに具わる最も大きな特徴とは、驚くべきことに"波形"だったのです。
波形とは、根本的な音色の種類を表すパラメータのひとつであり、本来は同じ回路のエフェクターを比べて波形が大きく異なることはありません。例えば、個体差があると言われているTS-808をいくつか計測したとしても、それらの波形はほぼ同じものとなります。しかし、#1は内部で何らかの異常をきたし、波形が意図しているものから変わってしまっていたのです。それ以外にも周波数特性、倍音構成を始めとする、様々な解析データを目にし、それらを見終わる頃にはすでに『この#1を再現したい』という思いが込み上げていました。
その後、#1の音色を再現するべく、田村さんとの間で毎日に近いペースで意見を交わし、幾度ものカット&トライを繰り返しました。様々な計測データを前に、私が聴覚上の違いを意見し、田村さんはそれを回路で再現してみせる。その繰り返しです。そして、#1の解析から5ヶ月を過ぎた頃、#1の特徴を現行のIbanez TS808をモディファイすることで再現することに成功した、このTS-808 #1 Cloning mod.が完成したのです。
#1の最大の特徴である波形をほぼ完璧に再現し、そのほかの数々の特徴も緻密なチューニングによって類似させています。しかも、あくまでも希少なヴィンテージパーツなどは使わずに、です。
低音の伸びとそれに相反するコードの分離感、そして弦の質感の再現性に長け、歪み量はわずかに多め。Toneコントローラーの効きにもこだわっています。ただし、ON/OFFを表すインジケーター(LED)だけはオリジナルよりも明るく、視認性の良いものへ交換してあります。エフェクトがOFFの状態ではオリジナルのTS-808と同様に無色透明ですので、ヴィンテージライクな外観の印象を崩すことはありません。また、内部のスイッチングFETの動作を制御し、電源投入時には必ずエフェクトがONの状態で起動するようになっています。これは元となった#1の動作を再現したものでもあり、同時にループスイッチャーなどのシステムに組み込んだ際の利便性を重視した仕様でもあります。
これは、すでに世にあるTube Screamerのモディファイ品とは大きく異なり、あくまでも1980年製の#1の再現を目指したものであるため、スイッチの追加や大規模な加工などはあえて行なっていません。しかし、#1が持つ美しいトーンを再現することはできたと、CULTと田村進氏は自負しています。
また、Version 2(V.2)へのアップデートにより、バイパスサウンド、オーバードライブサウンドともにヴィンテージ感を強め、よりオリジナルの#1に酷似した音色を再現することに成功しました。伸びやかな低音と、それに相反する分離感と透明感。ヴィンテージ然としたTSサウンドにも関わらず、まるでそこにトランスペアレント系の要素が混じっているかのようです。オーバードライブサウンドだけでなく、バイパス時のヴィンテージ然とした音色変化も再現しています。
全てのモディファイ作業は田村 進氏本人によって行われ、本体裏面にはそのことを証明する田村氏のサイン、シリアルナンバーが直筆によって加えられます。それだけに、生産のペースには限りがあることを何卒ご了承ください。
日本国内では非常に貴重な田村 進氏へのインタビュー記事もございます。ぜひ、ご一読ください。
※注文にあたり、以下の注意事項を必ずご了承ください。
1) 全てのモディファイ作業、本体裏面のサインは田村進 氏本人が行っており、生産のペースには限りがあるため、出荷までにお時間をいただく場合がございます。
2) 最新の注意を払ってモディファイ作業を行なっておりますが、作業の際に多少の傷がついてしまうことがございます。
3) いかなる理由でもシリアルナンバーの指定はできかねます。
4) 写真にあるオリジナルのTS-808はあくまでも比較画像であり、商品には含まれておりません。
5) Tube Screamerは星野楽器株式会社の登録商標です。当製品は星野楽器の認可を得て、販売しております。
※背面ラベルにある田村氏直筆のサインを保護するProtective Filmもぜひ、ご一緒にご検討くださいませ。