CULT Original Pedals “Behind The Creation” Pt.5
最後に、CULTオリジナル・ペダルの核心に迫る話をしよう。CULTオリジナル・ペダルは全て、細川雄一郎氏の経験と知識、すなわち彼の人生から生まれたものだ。だからこそ、CULTのペダルを理解する上では、この話が重要になる。細川雄一郎が理想とする歪みは何か? 彼はこれから何を成し遂げようとしているのか? こうした問いに対する本人の言葉をもって、このロングインタビューは完結となる。
Part 5 : Postscript
CULTでは、ひとりのオタクが
何の妥協もせずに作ったものを世に残したい
──今のところ、CULTオリジナル・ペダルは歪みだけです。そもそも、細川さんが歪みというものを認識したのは、いつ、どんな形ですか。
細川雄一郎(以下、YH):歪みというものは、実は楽器を知らないとよくわからないじゃないですか? だからきちんと歪みを認識したのは、中3と高1の間くらいに僕がベースを、友人がギターを始めた頃ですね。友人から“これが歪みだ”と教えられ、“カッコいい!”と思ったのが最初だと思います。
──最初に買った歪みペダルは?
YH:歪む機能がついているという意味ではサンズアンプなんですけど、純粋な歪みペダルという意味ではエレクトロハーモニックスの“Graphic Fuzz”です。
──最初から良いチョイスですね。そこから始まって、これだけの数のペダルと巡り合ってきたわけですか(※取材は神奈川県横浜市にあるCULTのオフィスで行われた)。
随分、長い旅をしてきましたね……。数々のペダルを体験してきた細川さんの、理想の歪みとはどんなものですか?
YH:そうですね……最近思うのは、僕はスケールが大きい歪みは好きだなとは思います。
──“Tempest”でもアンプ・スケールを謳っていますよね。細川さんにとっての“スケール感”とはなんでしょう?
YH:言葉にするのは難しいのですが、例えば10インチのスピーカーと12インチのスピーカーでは、音が違いますよね? 僕は12インチのスピーカーにスケール感を感じます。それは単純に低い帯域が出るということだけではないんですけど……。
──そこを追求して、定格の大きな抵抗を使ったり(Part 2)、アンプ・ライクの先を目指したり(Part 3)しているんですよね。
YH:そうです。うまく説明できないのですが、僕の中ではスケール感はとても大切であり、CULTの製品にはなんらかの形で反映されていると思います。
──実際に、“Ray”や“Tempest”を使っているので、自分はなんとなくわかります。細川さんは、スタック・アンプの歪みが好きなんじゃないですか?
YH:そうかもしれません。マーシャルでも大出力のモデルの音が好きですし、コンボ・アンプのVOXのAC30を歪ませるより、マーシャルのスタックを歪ませるほうが好きですね。
──スケール感、スタックの歪み、そんなキーワードを頭の片隅に入れながらCULT製品を使ってみると、細川さんの理想とする歪みが見えてくるかもしれませんね。さて、ここまでCULTのオリジナル・ペダルは全て歪みで、第4弾も歪み=ファズという発表がありました(Part4)。このまま、CULTのオリジナル・ペダルは歪みのラインナップを充実させていく方向なのですか?
YH:第4弾はファズ、第5弾にはオーバードライブを考えているので、しばらくはそうですね。今のところ、当初から僕の頭の中にあった6モデルくらいのアイデアを、順次製品化している感じです。ただ、将来的にも歪みにこだわっているわけではないですよ。
──そうなんですか? どんなものを考えているのでしょう?
YH:コンプやブースターに関しては、これまでに誰もやっていないアイデアがありますし、ワウに関しても回路は決まっていて、筐体をどうするかというところです。また、ディレイも出したいですね。僕は歪みだけでなく、どのペダルも等しく好きなので、僕が好きなものを出していくCULTのペダルを歪みだけに限定しようという気はありません。
──うおー、ワウとかディレイとか超楽しみです!! 早く弾いてみたい!! ところで細川さんはペダルだけでなく、アンプも大好きじゃないですか。CULTのオフィスにはアンプも非常に多いですし。もしかして、アンプを作るとかもアリですか?
YH:アンプが多いのは、確かに僕がアンプも大好きなのと、あとはリファレンスとして必要だということがあります。ただ、アンプを作るほど知識があるわけではないので、アンプ作りにまで取り組んでいくかというと、そこまでは考えていません。ただ、CULTとしてキャビネットを作ろうとはしていましたね。
──うわ、それはどうなったんですか?
YH:品質のコントロールが難しいということが解って、辞めました。
──やっぱり木でできているからですか?
YH:それもあると思うんですけど、誰が組んだかで音が変わっちゃうらしいんですよ。例えば、工房のAさんがお休みで今日はBさんが組むとなると、音が変わってしまう……。
──それは難しいですね。CULT製品の組み込みは、個体差の問題は?
YH:組み込みは複数で行なっていますけど、ハンダはひとりで行なうとかのようにパートが決まっているので、そこは大丈夫だと思います。
──では細川さんにとって、ペダル道のゴールってなんでしょう?
YH:そうですね、「ペダルの仕事に関して何も心配せずに全てできる状態」ですかね。例えば、欲しいペダルは手に入れることができる、工場を作ろうと思ったら場所や人材の問題をすぐにクリアできる、とか。あと、僕は隕石が好きなんですが隕石でペダルを作ってみたり、超々ジュラルミンよりチタンのほうがイケてると思ったらチタンでペダルを作ってみたり。ブラジリアンローズウッドのペダルも作ってみたいですね。これは入手の問題よりも強度やノイズ対策のほうが難しそうですが(笑)。そういったことが、全て実現できる状態が理想ですね。もしかすると、それはゴールではなくスタートかもしれません。
──完全に、無敵の状態ですね。そうなるためには、お金がひとつの解決策になるかもしれません。その意味では、CULTオリジナル・ペダルを広めていく、売っていくということも大事ですよね?
YH:そうなんですけど、僕にとっては良いものができた時点で満足してしまい、切り替えてそれを広めていくというのは意外と難しいんです。他人の作品であれば、それを広めるというところにダイレクトで行けるので、CULTのショップで取り扱っていきたいと思うのですが。
──では、例えばCULTオリジナル・ペダルの廉価版についてはどう考えますか?
YH:筐体やパーツの価格を下げて、音を作るという意味では90点のものは作れると思いますし、それはもしかしたら今のラインナップの5倍売れるかもしれません。でも、廉価版を作ることに意味を感じないんです。僕は、ひとりのオタクが何の妥協もせずに作ったものを世に残したいんですよ。
──!! 今のお話を聞いてCULTオリジナル・ペダルを改めて見ると、筐体の素材、デザイン、構造、回路、パーツ、音、操作性、何ひとつ妥協していないことに納得がいきます。今日のインタビューの内容は、全てさっきの言葉に集約されていますね。
YH:そうですね。僕が本当にやりたいことをやる、というCULTのスタンスはこれからも徹底していきたいと思います。
──CULTの今後がますます楽しみです! 今日は長い時間、ありがとうございました!
YH:こちらこそ、ありがとうございました!