CULT Original Pedals “Behind The Creation” Pt.4
CULTオリジナル・ペダルの最新機種が、ベース用オーバードライブの“Lux”(2023年7月現在)。オーバードライブ、ディストーションと続き、いよいよ次はファズかと誰もが思ったところでリリースされたのが“Lux”だ。このタイミングでなぜベース用オーバードライブなのか、“Lux”はどのような背景を持ったペダルなのか、細川氏に話を聞いた。
Part 4 : “Lux”
ベース・コントロールがどこの帯域を突くか
どれくらいの幅で突くかというのは研究しました
──オーバードライブ、ディストーションの後にベース用オーバードライブをリリースした狙いを教えてください。
細川雄一郎(以下、YH):“Lux”の回路は、“Ray”が元になっているんですね。ベースに“Ray”を繋いでみたら、すごく良い音がしたんです。ただ、もちろんベース用に調整は必要だったので、きちんと調整してリリースしたいと思っていました。それと、世の中に自分がいいなと思うベース用のオーバードライブがあまりにも少なく、良いと思うものにも多少の不満があったので、だったら自分が作った方がいいと考えました。
──既製品に対する不満は、どんなものだったんですか?
YH:EQコントロールの面で、自分が上がって欲しいと思うところが上がってこなかったり、下がってこなかったりという感じです。バンドの中で、いて欲しいところにいないんですよ。それから、歪みの質が好みでなかったりしました。潰れすぎているものが多いと感じています。
──あー、それはよくわかります。いろいろなバンドでリハをやっていると、ベーシストが歪みペダルを買って持ってくるということが時々あるんですけど、なかなか厳しいなという印象です。潰れすぎ、腰高になりすぎ、抜けない、オフッた方がかっこいいなど、いろいろな問題があり、ベーシストもバンドで音を出すとそれはわかって、何回かすると持ってこなくなることが多いですね。先ほど“Lux”をチェックさせてもらった時には、ドライブ・コントロールを下げた状態で、繋いだだけでもめちゃくちゃかっこいい音がして驚きました。
YH:ありがとうございます。“Lux”は、正直なところ開発に1番苦労したモデルなので、そういった評価は嬉しいですね。
──苦労したのはどういった点で?
YH:理想とする特徴の全てを叶えるための調整に苦労しました。繋いだだけでかっこいい音のモデルは作れても、そうすると歪みの音色が物足りなかったり、歪みが良いと繋いだ時の音がそれほどでもなかったり……全てを良くするための調整が大変でしたね。
──そういった調整は、何をどういじって行うんですか?
YH:ベースになる“Ray”の回路は、最終的に大きくは変えませんでした。フィルターになっている余計なコンデンサーは要らないとか、ベース・コントロールを調整するとか、ここのコンデンサーの値を上げようとか、そんな感じです。
──なるほど。そうした調整の甲斐あって、本当に素晴らしいオーバードライブになっていると思います。
YH:ありがとうございます。“Ray”の回路が元になっているので、歪ませるのは得意というか、歪ませた時に良い音にするのは比較的簡単でした。ただ、ドライブを下げた時に音が細くなったり、ベースらしい帯域が失われることがあって、そこを両立させるのが大変でした。
──確かに、歪みを下げると音がペショペショと弱々しくなるペダルってありますし、ベースで使うとなるとそれが顕著に出ますよね。
YH:歪ませていない時の音として、リファレンスにしたのはサンズアンプです。サンズアンプの歪ませた時の音は僕は好きではないんですが、歪ませない時には良いところがあると思っていて。もちろん、だからといってサンズアンプに音を寄せては意味がないんですけど、通した時にかっこいい音にするのはどうしたら良いかを考えて、ベース・コントロールがどこの帯域を突くか、どれくらいの幅で突くかというのは研究しました。
──コントロール部分の特徴を教えてください。
YH:基本的には“Ray”と同様で、ボリュームはなるべく大きな音が出せるように出来ています。ベースはアクティブ、トレブルはパッシブというのも同じです。プリアンプ的な使用を想定して、ドライブは最小では全く歪まないようにできています。そこから少し上げるだけでは低域が少なく感じますが、上げていけば歪みとともに野太い低域に纏われていきます。また、ベース・コントロールでもその低域の過不足を補完できるように作っています。
──ドライブを下げた音は、素の音とあまり変わらない印象です。
YH:そうですね、ほぼ変わらないんですけど、通すだけで少しリッチな音になるように調整しています。僕が好きなアンペグの出力が高い真空管アンプに通した時のような、ゴリッとした音にトリートメントされるようになっています。これだけでも、このペダルの価値があるかと思います。
──“Lux”は、歪んだ音を求めるベーシストはもちろん、ほんの少しだけ歪みの成分が入った太いクリーンを出したいベーシストは絶対に試すべきですね。特にピックで弾いた時の良さは、全てのロック・ベーシストが一度は体感すべきだと思いました。
YH:音のチューニングはまずピック弾きで始めたので、ピック弾きとの相性の良さは間違いないと思います。もちろん、それから指弾きやスラップでもチェックしていますので、ドライブ・サウンドを求めるベーシストには全員お薦めしたいですね。
──あとは、プログレ系のベーシストにも合いそうだなと感じました。クリス・スクワイア、ジョン・ウェットン、ゲディ・リーなどのプレイヤーの音は、皆歪んでいますので。
YH:そういったタイプのプレイヤーとの相性も良いと思います。クリス・スクワイアのベースの雰囲気は好きで、実際に開発中にもよく聴いていました。
──“Lux”はプリアンプ的にも使える、という認識で間違っていませんか?
YH:もちろん、プリアンプ的な使い方も想定して、その範囲もカバーしていますが、開発はあくまでもベース用の純粋なオーバードライブとして行っています。この価格帯のペダルを買うベーシストって、おそらく必要な機材はある程度揃っていて、プリアンプもすでに持っていると思うんですよ。そうしたものと比べると、“Lux”はプリアンプ的な機能と音に特化しているわけではないですし、コントロールもシンプルすぎるということになると思います。むしろ、今ある環境にばっちりハマるオーバードライブ・ペダルと考えてもらった方が良いですね。
──このペダルは9V~18Vで使用できますが、推奨は?
YH:どちらでも使えますが、18Vの方がクリアで解像度が高くなるので、ベースとの相性は良いと思います。実は“Ray”も同じ仕様ですが、“Ray”に関しては9Vの方が僕は好きですね。当初想定していた音に9Vの方が近いです。“Tempest”も初期ロットは同じ仕様でしたが、現在は9Vを指定します。
──“Lux”という名前は、何に由来しているのですか?
YH:回路的に“Ray”を元にしているので、“Ray”をイメージさせながらそのバリエーションとなる名前を付けました。「Lux (ルークス)」という言葉はラテン語で光という意味なんですね。「Ray」は英語で光線です。Rから始まる3文字の“Ray”に対し、Lから始まる3文字の“Lux”。デザイン的にも、“Lux”は“Ray”の色を反転させたカラーになっています。
──ああ、確かに。“Lux”の色はすごく視認性が良いですね。“Lux”を実際に使っているプレイヤーからは、どういった評価をされているのでしょう?
YH:共通しているのは、コントロールをどこに設定しても良い音という評価ですね。それは苦心した点なので、素直に嬉しいです。あとは、“Ray”や“Tempest”と比べても、圧倒的に良い評価が多いことも特徴ですね。
──そうなんですか!
YH:それだけ、現在の市場には多くの人にフィットするベース用オーバードライブが少ないということになるのかもしれません。
──自分にとっては「ベース用オーバードライブとはまた渋いところを突いてきたな」という印象だったのですが、実はベース・プレイヤーにとっては待ちに待ったモデルだったわけですね。実際に“Lux”をスタジオに持ち込めば、他のメンバーからも喜ばれると思います。
YH:他のメンバーのウケが良いというのは、想像できますね。
──良いベース・サウンドは、バンドにとっても楽曲を聴くリスナーにとっても喜びですから! 一人でも多くのベーシストに、“Lux”を手に取ってほしいと思います。
YH:本当にそうですね。
──最後に、CULTオリジナル・ペダルの今後のリリース情報で、話せることがあれば。
YH:実は、第4弾はファズを考えていまして、今まさにその準備をしています。
──ファズ! ついに!! どんなものか、いつ頃のリリースか、可能な範囲で教えてください!
YH:ビッグマフ・タイプのファズです。リリースは2023年の秋頃を想定しています。当然、僕が心から作りたいと思ったものを形にしたモデルですので、期待していてください!